ヒトの進化と愛着障害
赤ちゃんは進化の途上で生まれる
ボウルビイは、母子の結びつきが破綻することによって起きるダメージは、人間に限らず動物でも見られることを知り、母子の結びつきを生物学的現象として理解するようになった。
特定の養育者との結びつきが、幼い子どもの発達や安定にとって不可欠な役割を果たしているという確信を持ち、その結びつきを「愛着」(アタッチメント)と呼ぶようになった。
と下記の記事で書いた。
胎児の成長は、魚類→両生類→爬虫類→哺乳類と進化の道をたどっている。
また、人の脳の構造も大まかには爬虫類脳・動物脳・人間脳(脳の3層構造・仮説)と進化とともに巨大化してきた。
本の名前を思い出せないが、脳の構造は建て増しを繰り返した老舗温泉旅館のようだと読んだことがある。
進化するごとに増築を繰り返したというわけだ。
生まれたばかりの赤ちゃんは、昼と夜の区別もなくおよそ3時間おきくらいにおなかをすかせ、泣いて乳を求める。
快と不快しか表せない赤ん坊はやがて笑うようになり、周囲の大人の表情をまねるようになる。
新生児の脳は、構造や機能としては出来上がっているが、神経細胞と神経細胞とをつなぐシナプスが形成されていない。
シナプスは生後から6か月~12か月まで急激に増え、その後減っていく。
(ただ減っていくだけではなく、大人になってもシナプスは形成される)
生後も進化は続く
4か月を過ぎる頃から、赤ちゃんの方からバブバブと話しかけたり、母親が反応して話しかけると喜ぶ。
イナイイナイバーなどの簡単なゲームのやり取りも喜ぶ。
特定の養育者とのこうしたやり取りをたくさんしながら、人と愛着(信頼関係)を結ぶことで、人間関係の脳のシナプスが形成されていくのだろう。
生まれて乳やミルクを与えられ、食べさせらるだけでは、人としては育たない。
人は群れて生きることで極めて脆弱な肉体を持ちながらも、並み居る屈強な猛獣や敏捷な哺乳類たちよりも繁栄し、現在がある。
生後、特定の人との愛着=信頼関係を結ぶことは、進化の道筋で獲得してきたことで、群れ(社会)で生きるために必要なことだったのだろう。
現在はより群れの単位が大きくなっているので、質的、量的により重要度が増しているかと思う。
反応性愛着障害 (Reactive Attachment Disorder)と原因
「反応性愛着障害」とは、5歳未満に始まった、対人関係の障害 である。
(全米精神疾患診断統計マニュアル)
中核症状は、自分のイライラや不満を抑える力に欠けることと、対人関係が築けない
ことである。
原因には下記のようなものがある。
*胎児期のアルコール、薬物、喫煙、放射能被ばくなどによる脳形成の異常
*乳児が未熟児や病気による長期入院、知的、身体的障害
*難産、母親が病気、うつなどの不安定な精神状態
*母親の長期入院、失踪、死
*不特定(多数)の世話人による無神経で不注意な養育
*ネグレクトや虐待などの誤った養育
参考書籍
社会が巨大で多様になった現在、母子を取り巻く状況はより複雑になってきている。
ワンオペ育児という言葉に象徴されるように、赤ちゃんに手間暇がかかる時に産後の体を抱え、援助も得られずに孤立してしまう母親もいる。
進化の途上にいる赤ちゃんと母親を大切にするという認識を共有できなければ、少子化は続くと思う。
後記
本日は話題がマクロな視点になったが、毒親もこうした背景のなかで誕生してきたのではないかと思う。
ワンオペ育児は最近の言葉だが、核家族のはしりで転勤族だったわが家には、家族以外の出入りはほとんどなかった。
育児も家事も父親の世話も母の仕事であり、核家族になったのに男女の役割分担は変わらなかったのである。