愛着とスキンシップと「抱き癖」
赤ちゃんの原始反射
人間の赤ん坊は動物として、かなり未熟な状態で生まれる。
スイス生物学者 ポルトマンは、それを「生理的早産」と表現した。
自分の足で立つことはおろか、しがみつくこともできず、
泣くこと以外、ほぼ何もできない。
しかし、赤ちゃんには、原始反射と呼ばれる生まれつきの機能が備わっている。
赤ちゃんの手のひらに何かが触れると手を握ってつかもうとする反射、口のふちに触れたものを吸う反射、口の中に入った液体を飲み込む反射、大きな刺激を受けた時、両手を広げて何かにしがみつくような反射などがある。
原始反射は生命維持の役割と反射を繰り返すことにより、中枢神経が発達して行くと考えられている。
外敵から逃れたり戦うことのできない赤ちゃんが、親に乳をもらい、保護されて生き抜くためにうまれながらに持っている力が、原始反射と呼ばれる。
原始反射は、自分の意志で身体を動かすことができる(随意運動)ようになると消失する。
これらを書いていると、子ザルを抱えた母ザルの姿、あるいは母ザルの背中にしがみつく子ザルの姿が目に浮かぶ。
ヒトも進化の途上の長い期間、母親にしがみつき、乳をもらって成長するという時期を過ごしたのだろう。
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愛着形成の基礎 スキンシップ
アメリカの心理学者、ハリ・ハーローはアカゲザルの赤ちゃんに対して、針金の哺乳瓶を取り付けた人形と、体温程度に温めた布の人形を用いた実験を行った。
ハーローは乳のない布製の人形には目もくれないと予想したが、子ザルは布の柔らかい人形のほうに長い時間抱きついていたという結果になった。
おなかが空いたときだけ針金の人形で乳を飲み、それ以外は布製の人形の方にしがみついて過ごした。
ケージの中に子ザルが恐怖するような人形を入れると、布製の人形にしがみついた。
これらの実験の後、動かず、反応しない針金や布製の人形(代理母)で育った子ザルは、恐怖感が強く、攻撃的で異常行動を起こすようになった。
集団になじめず、いじめられ、自傷行為をするサルもいたようだ。
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実験から子ザルには乳という栄養だけでなく、母ザルとのスキンシップ・相互交流(声かけ・動きなどの反応)がないと、心理的、精神的に安定して成長できないということがよくわかる。
ヒトはサル(類人猿)に枝分かれして進化してきたのだから、母子関係の基盤はほぼ同じと考えてよいと思う。
「抱き癖」ーまちがった常識
1950年代初期のアメリカで 、抱き癖がつくから泣いても抱っこはしない。
決められて時間以外は授乳しない、良いところをほめ、悪いところを罰するという行動派の考え方が流行した。
これが伝わり、日本でも母子手帳に書かれたようだ。
アメリカではすぐに間違いに気づき、1960年代には抱いて育てるとなったが、日本では「抱き癖」という言葉がはやり、抱いてばかりいると抱き癖がつくと、母から娘、姑からお嫁さんへと伝えられた。
1983年には母子手帳は書き直されたが、間違った常識として残っているようだ。
生まれたばかりの赤ん坊は体温調節を始め、身体的な生存機能も未発達だ。
母親(世話人)に抱かれて体温を保持し、不快な時はあやされてなだめられてをくりかえられることで、身体の調節機能を発達させ、声をかけられ、優しくゆすられて交流することで信頼関係の基礎が築かれる。
ハーローの実験から推測できるように、スキンシップを通した交流は、赤ちゃんの発育に必要不可欠なものである。
後記
20年以上前、私は出産するのに助産院を選んだ。
2人目は自宅出産にした。
冒頭で書いた原始反射については、助産婦さんが実際にやって見せてくれながら教えてもらった。
すっかり忘れていたが、NHKドラマ 「透明なゆりかご」 を見ていて思い出した。
何らかの障害があるかどうか確かめる目安にもなる。
ボウルビイの愛着理論、ハーローの実験については大学で学んだ。
私は何かをするときに徹底的に調べて、自分のいいと思うものを選んで生きてきた。
そのこだわりようは、ごく普通に生きている他人からすれば、過ぎた行為にも見えていたと思う。
こだわりすぎて失敗だと思えるようなことも多々あった。
けれども、間違った常識や狭量な考え、やり方を押し付けて干渉してくる親(義両親)に対抗するために、理論武装し、実践し、試行錯誤してきたのだと思う。
参考書籍